大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(特わ)2384号 判決

本店所在地

東京都台東区上野七丁目三番九号

北旺商事株式会社

(右代表者代表取締役 北村徳次郎)

本籍

東京都台東区松が谷四丁目二九三番地

住居

浦和市太田窪一丁目三〇番一二号

会社役員

北村徳治郎

昭和五年三月二八日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官蝦名俊晴、弁護人合田勝義、同吉村節也各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社北旺商事株式会社を罰金五〇〇〇万円に、被告人北村徳治郎を懲役二年にそれぞれ処する。

被告人北村徳治郎に対し、この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社北旺商事株式会社(以下、被告会社という)は、東京都台東区上野七丁目三番九号に本店を置き、日用品雑貨の販売、株式・債券等の投資等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人北村徳治郎は、被告会社の代表取締役として、被告会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人北村徳治郎は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、商品先物取引を他人名義で行うとともに、同取引による利益を仮名の預金口座に入金するなどの方法によりその所得を秘匿したうえ

第一  昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億六七三四万八〇一八円(別紙1修正損益計算書のとおり)であったのにかかわらず、右法人税の納期限である平成元年五月三一日までに、東京都台東区東上野五丁目五番一五号所轄下谷税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで、右期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における法人税額六九三二万六一〇〇円(別紙2脱税額計算書のとおり)を免れ

第二  平成元年四月一日から同二年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四億五三五八万〇七七〇円(別紙3修正損益計算書のとおり)であったのにかかわらず、右法人税の納期限である同二年五月三一日までに、前記下谷税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで、右期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における法人税額一億八〇五五万二〇〇〇円(別紙4脱税額計算書のとおり)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人北村徳治郎の当公判廷における供述

一  被告人北村徳治郎の検察官に対する各供述調書

一  黒田末一、木村均矢、島崎照男の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の商品売買益調査書(検甲一)

一  大蔵事務官作成の各査察官調査書(検甲二一、二二)

一  大蔵事務官作成の役員報酬調査書(検甲二)

一  大蔵事務官作成の旅費交通費調査書(検甲三)

一  大蔵事務官作成の水道光熱費調査書(検甲四)

一  大蔵事務官作成の交際接待費調査書(検甲五)

一  大蔵事務官作成の租税公課調査書(検甲六)

一  大蔵事務官作成の事務費調査書(検甲七)

一  大蔵事務官作成の通信費調査書(検甲八)

一  大蔵事務官作成の地代家賃調査書(検甲九)

一  大蔵事務官作成の消耗品費調査書(検甲一〇)

一  大蔵事務官作成の雑費調査書(検甲一一)

一  大蔵事務官作成の受取利息調査書(検甲一二)

一  大蔵事務官作成の支払利息調査書(検甲一三)

一  大蔵事務官作成の損金不算入法人税等調査書(検甲一四)

一  大蔵事務官作成の損金不算入地方税利子割調査書(検甲一五)

一  大蔵事務官作成の事業税認定損調査書(検甲一六)

一  登記官作成の各登記簿謄本(検乙八、九)

一  検察事務官作成の電話聴取書(検甲二〇)

(法令の適用)

被告人北村徳治郎の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に、被告人北村徳治郎の判示各所為は、いずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから被告会社につきいずれも同法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、被告人北村徳治郎につき各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、被告会社につきいずれも情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人北村徳治郎につき同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、被告会社につき同法四八条二項により各罪所定の罰金を合算し、被告人北村徳治郎につき加重した刑期の、被告会社につき合算した金額の各範囲内で被告人北村徳治郎を懲役二年に、被告会社を罰金五〇〇〇万円にそれぞれ処し、被告人北村徳治郎に対し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

本件は、二期にわたって総額六億二〇九二万円余の所得を秘匿し、二億四九八七万八一〇〇円を脱税したもので、脱税額として高額の範疇に属する。そして、ほ脱率は一〇〇パーセントという悪質なものである。脱税の手口は借名名義での商品先物取引を行い、その利得は仮名預金口座に入金するなどし、更には平成元年六月一二日に所得金額が一万五九〇〇円、法人税額が四五〇〇円、平成二年六月四日に所得金額が一万三二〇〇円、法人税額が三九〇〇円という商品先物取引による所得を全く秘匿した各期限後申告をするなどの事後工作もしているのであって、態様は悪質である。そして、被告人は、昭和五九年七月事実上の倒産状態に陥った被告会社の再生を期し、商品先物取引に心皿を注いで判示の所得を得たものの、納税は取引資金を減少させるとして商品先物取引の一切の利益を隠匿し、右により被告会社の隆盛をもたらせようとしたもので、その動機についても特段酌むべきものがない。以上によれば、被告人の責任は重いというべきである。

しかしながら、被告人は、当公判廷において反省の情を披瀝しており、再犯の虞れはないこと、起訴前に修正申告をしていること、秘匿した利益は累積した繰越債務に対する弁済及び翌期以降の商品先物取引の損失により、すべて消失して窮迫しているなか、本年二月までに本税一六〇〇万円を工面して納付し、今後は個人資産の住居を処分するほか、不動産の仲介などに精励して完納を目指して努力していること、被告人が受領した役員報酬などは極めて少額であり、また経費も切り詰め、冗費の謗りを受ける余地が皆無である会計処理をしていたこと、借名名義による商品先物取引は建玉制限回避のために日常的に行われている面もあること、今後は税理士に経理を監督してもらうほか、青色申告の承認を得て繰越控除を受けることができるようにするなど適切な会計処理体制を整えたこと、被告人の苦学した時代の担任教師において被告人の誠実性を保証し、被告人を寛大な処分に止めるように上申していることなど酌むべき事情も存する。

以上の各情状のほか、その他諸般の事由を勘案し、その刑の量定をし、被告人に対してはその刑の執行を猶予した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑・被告会社に対し罰金七〇〇〇万円、被告人北村徳治郎に対し懲役二年)

(裁判官 伊藤正髙)

別紙1

修正損益計算書

〈省略〉

別紙2

脱税額計算書

〈省略〉

別紙3

修正損益計算書

〈省略〉

別紙4

脱税額計算書

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例